2021年、日本国内のM&A件数は4,280件で、これは前年の2020年より14.7%を上回る件数でした。
2017年以降、M&Aの件数は増加傾向にあります。M&Aは何をもたらすのでしょうか?
この記事ではM&Aの意味、目的やメリットなどM&A業界転職希望者にわかりやすく解説します。
M&A業界に興味がある人は、ぜひ参考にしてください。
出典: 日本M&Aセンター「2021年のM&A件数は過去最多、2022年トレンド予測」
M&Aの意味はどのようなこと?
M&Aは日本語の意味では合併と買収を示します。英語の”Mergers&Acquisitions”の頭文字を取って略してM&Aと一般的に使用されています。
海外では、有名企業同士がM&Aを行い、新聞に掲載されて話題になることもありますが、
日本におけるM&Aは、そのほとんどが中小企業の合併と買収のことです。
企業の経営者が事業再編や経営拡大、事業承継などに対する経営戦略の一環として2000年頃よりM&Aを行うようになりました。
日本では、ここ数年様々な経営課題を解決するためにM&Aが行われていて、さらに増加傾向にあります。
M&Aを行うことで、中小企業の経営者が抱えている問題を効率的に解決できるため、M&Aの成約率が上昇しています。
M&Aの目的とは?
M&Aを行う目的は日本と海外で異なり、日本の場合ほとんどが友好的M&Aなのに対し、海外では経営戦略の一環として敵対的M&Aが行われることがあります。
友好的M&Aと敵対的M&Aの違い
友好的M&Aは相手企業の経営陣の同意のもとM&Aを行うことです。日本のM&A仲介会社が売り手企業と買い手企業のマッチングを行い、同意が得られれば成約となります。一方、敵対的M&Aは相手企業の経営陣の同意なしに行うことです。必ずしも、相手企業の議決権を100%取得する必要はなく、過半数を取得すれば株主総会の普通決議で、取締役選任を可決させることができます。
敵対的M&Aの目的
企業の資本政策や企業再編成を目的として行われます。
一方、敵対的M&Aは相手企業の経営陣の同意なしに行われるM&Aのことを表します。
対象となった企業の株式の保有率を上げ、株価の上昇を図ることで企業価値の向上になります。
敵対的M&Aは3通りの防衛策があります。
1.ホワイトナイト
買収を仕掛けられた企業と友好的関係にある企業が、買収対象になっている企業の株式を取得してもらう方法です。
2. ポイズンピル
買収対象となった企業の既存株主に新株予約権を条件付きで発行し、買収企業の持ち株比率を下げる方法です。
3.焦士作戦(クラウン・ジュエル)
買収対象となった企業が自社の資産や事業を買収前に売却して、敵対的M&Aを仕掛けている企業の買収意欲を減退させ、買収を防ぐ方法です。
友好的M&Aの目的
友好的M&Aを行う理由は、大きく分けて次の3つです。
1.シナジー効果をもたらす
M&Aを行うことで企業同志で不足している技術、マーケット、人材などを補い、強化することができるためにシナジー効果が得られます。
重複した事業や、人員などは効率化のために削減をすることができます。銀行などが統合後に支店を統合したりするのが、この方法にあたります。
2.事業承継をすることができる
中小企業多く見られる後継者問題を解決することができます。経営者の高齢化、後継者となる適任者がみつからない、後継者となる人材が確保できない、これらの深刻な問題をM&Aを行うことで廃業をすることなく、次世代に事業を承継をすることができます。
3.事業の拡大や市場への適応ができる
急速に市場が変化しているなか、企業が抱えている問題は技術の進歩や変化への対応をするために資金不足やリソース不足、適した人材確保ができないなどがあります。
M&Aを行うことで既存の企業が既に持っている技術やノウハウ、人材などを活用することができ、事業拡大につながります。
さらに、変化が著しいマーケットにも適応することが可能となります。
M&Aが急増している理由と背景
2000年以降、M&A件数は急増しています。なぜ、このようにM&Aの件数が増えているのでしょうか?
その理由は2つあります。
事業承継のためのM&A
日本の中小企業の経営者を悩ませている深刻な問題に事業承継があります。
中小企業庁によりますと、2025年までに中小企業、および小規模事業の経営者が満70歳を迎える人数は245万人にもおよび、うち約半数近い127万人が後継者が未定となっています。
これは、日本国内の企業全体の約3分の1にあたります。
この状態が続くと、中小企業や小規模事業の廃業ラッシュとなり、2025年までに累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があります。
出典: 中小企業庁 「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
この現状が続くと2025年までに廃業する企業が増加し、雇用などを含めて日本の経済にもダメージを与えることになります。
2019年に国内で廃業、解散した企業は4万3,348件(前年比7.2%減)にもおよび、休廃業企業の経営者の約4割が70代で、60代以上でみると経営者の年齢構成の8割(構成比83.5%)を超えています。
これは2018年(83.7%)より0.2ポイント低下しましたが、企業の経営者の高齢化が休廃業・解散を加速する要因になっていると示されています。
出典: 東京商工リサーチ 「2019年「休廃業・解散企業」動向調査」
さらに、新型コロナパンデミックにより、外出規制が必須となったため2020年(1-12月)に全国で休廃業・解散した企業は、4万9,698件(前年比14.6%増)で、これはこれまで過去最多の2018年(4万6,724件)を抜き、2000年に東京商工リサーチが調査を開始以降、最多を記録したと報告されています。
これらの企業が休廃業をした背景としては、企業の41.7%が、経営者の年齢は70代でした。経営者の年齢構成全体の60歳以上でみると84.2%と8割を超え、60歳以上の比率は前年(2019年)から0.7ポイント上昇しています。
最も大きな理由としては、事業承継がスムーズに進まず、社長の高齢化が休廃業・解散を加速する要因になっていることが示唆されています。
出典: 東京商工リサーチ 2020年「休廃業・解散企業」動向調査
昨年、2021年はM&A件数が過去最多の4,280件で、2020年に比べて14.7%増加しています。
一方で、2021年(1-12月)の企業の休廃業・解散は、全国で4万4,377件(前年比10.7%減)となり、過去最多だった2020年(4万9,698件)から、1割以上減少しています。
2021年の休廃業は、2000年以降、2020年、2018年(4万6,724件)に次いで3番目の高水準となり、倒産企業の7倍以上が休廃業をしています。
休廃業企業の当期損益は、「黒字」が56.5%(前年比5.0ポイント減)と大幅に下落し、初めて6割を割り込んだと深刻な企業の休廃業の現状が報告されています。
出典: 日本M&Aセンター「2021年のM&A件数は過去最多、2022年トレンド予測」
出典:東京商工リサーチ 「休廃業・解散企業は前年から1割減の4.4万件、廃業前決算「黒字」が大幅減【2021年】」
このように、日本の企業全体の3分の1を占める中小企業の経営者が2025年までに70代になることが深刻な原因となっており、事業を廃業するよりはM&Aにより他の企業に承継、もしくは資金力がある大手資本の傘下に入ることを希望していることがM&A増加の背景となっています。
クロスボーダーM&A
クロスボーダーM&Aは、日本企業と海外企業とのM&Aのことを表し、外国企業が譲渡企業もしくは譲受企業の一方となります。
クロスボーダーM&Aは、事業承継M&Aの背景と同じ理由やインターネットの進歩や製造業などのビジネスモデルの変化に伴う雇用人口の削減などにより増加しています。
海外企業は成長率が鈍化している日本企業とは異なり、成長率が高いため、事業の拡大や現状を打破するために海外進出を経営戦略として考える日本企業が増えているためです。
クロスボーダーM&Aの種類は、2通りあります。
IN-OUT(インアウト) 国内企業が海外企業を譲り受ける取引です。
OUT-IN(アウトイン) 海外企業が国内企業を譲り受ける取引です。
クロスボーダーM&Aが増加している理由は、人口減少による市場の縮小や、海外で市場の成長見込みによる売上の獲得、さらに相手先国の企業が既に有している顧客基盤や、技術、人材の獲得、ビジネスモデルの獲得により更なる事業の拡大と成長です。
日本国内では、海外から安価な製品や食料の輸入が多く、国内生産では価格競争に対応できないことがあります。
高騰した原料費によるコスト削減の激化、少子化による労働力確保が困難であること、高い人件費や採用費用、原油を原料とした製品の原材料費の高騰など、中小企業の経営に負担が増加しているために、海外に拠点を移しコスト削減を目的としてM&Aが行われています。
M&Aのメリット
日本国内で中小企業を対象にしたM&Aは双方の企業のシナジー効果を目的としています。
M&Aのメリットとしては次の5つのポイントがあります。
事業の承継が可能となる
前述の通り、2025年までに現在60歳以上の高齢化した企業の経営者の後継者を見つけることが、問題解決の急務です。
M&Aを行うことで廃業する企業を減少させ、これまで企業が培った技術、ノウハウを継承させて、顧客サービスや人材の雇用を継続することが可能となります。
事業規模に効率的な経済性の確保
国内市場が縮小する中で、新規の設備投資や、顧客や取引先の拡大を図るの容易ではありません。
M&Aは、既存の企業が保有する技術、人員、設備、施設、顧客、取引先、ノウハウなどを他の企業とマッチングさせ、事業の継続や拡大、成長を実現します。
M&Aをすることで、事業の市場規模を経済的にスピーディーに維持、拡大することができます。
企業の事業の多角化が可能
現代社会では、市場が激変することが珍しくありません。企業が安定的な収益を維持するには多角経営をする必要があります。
一方で、新規事業の立ち上げには多額のコストや時間がかかり、リスクも伴います。
M&Aにより、既存の事業を買収することで、リスクヘッジをしながら速やかに事業の多角化が実現できます。
経営者に報酬がもたらされる
M&Aをすると、廃業にかかる費用を支払う必要がなく、買い手企業から企業を売却した収入が得られます。
企業の成長が見込める
中小企業では、資本力や技術力などがネックとなり、それ以上見込めなかった事業が多くあります。しかし、大手企業の傘下、もしくは優良企業に合併されることでさらなる成長を遂げる可能性もあります。
M&Aのデメリット
M&Aのデメリットとしては4つのポイントがあります。
企業の将来性「のれん代」の減損
企業には企業の将来性「のれん代」の減損買収後、将来どれくらいの金額を生み出せるのかを評価した「のれん代」とよばれる評価方法があります。
買収時の価値が数年には激減する可能性もあり、その差額を減損処理をする必要がある一方で、税務上では損金として認められない場合も多くみられます。
この場合、実務利益が減少するにもかかわらず、実行税率が上がってしまい、企業にとって負担となります。
企業間の文化が融合できないこともある
M&Aは2社以上の異なる企業の合併、統合、あるいは買収により、それぞれの文化が違う企業が1つになることです。
企業には、その企業の社風、文化、雇用条件があり、これらの文化が融合できない場合もあります。M&Aコンサルタントがマッチングに力を注ぐのは、このためです。
予想外の責務による損失
M&Aにより企業を買収後に予想外の簿外債務や訴訟などで債務が発生するリスクがある場合があります。
M&A仲介会社は、M&Aの選定企業をリサーチする際にデューデリジェンスという企業のさまざまなリスクを各専門家が調査します。
人員削減や労働条件の変更
M&Aにより人員削減が行われたり、それまでの雇用条件よりも悪くなる場合もあります。その結果、優秀な人員が退職するリスクもあります。
まとめ
M&Aは今の日本の中小企業が抱えている後継者問題を解決することができます。さらに、クロスボーダーM&Aにより、市場の拡大や事業の成長を見込める、事業の多角化を実現できるメリットもあります。
その一方で、予想外の債務の発生や、のれん代といったリスクもありますがM&A仲介会社を通してM&Aを行うことで、これらのリスクを回避することが可能です。
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